Subject  

研究対象の説明
鱗食魚について

 私は、アフリカ・タンガニイカ湖に生息する鱗食魚(りんしょくぎょ、うろこくいうお)をモデルとして研究をしています。タンガニイカ湖に他の魚の鱗を食べる魚は7種いますが、研究に用いているのはPerissodus microlepisで、本種を便宜上、鱗食魚と呼んでいます。

         
            鱗食魚 Perissodus microlepis


 進化の実験室として有名なタンガニイカ湖のシクリッド科魚類は、約1000万年前に湖が形成されて以来急速な種分化をとげ、現在は200種類以上が記載されています。その中で、獲物の魚の鱗を剥ぎ取って食べる鱗食魚(P. microlepis)は、口部形態に明らかな左右非対称性をもち、しかも、種内に左右2タイプがいます。すなわち、本種には左側の下顎骨が大きくて口が右に向かって開く「左利き」と、右側の下顎骨が大きくて口が左に向かって開く「右利き」がいるのです。それらの左右非対称な形態は、より広く口を獲物の体表に押し当てることで、ウロコを効率的にはぎ取れる構造と考えられています。
 さらに、他の魚への襲撃方向も形態と対応した一方向からに偏っています。成魚の左利きは獲物の左側から、右利きは右側から主に襲います。また、襲撃時の屈曲運動にも左右差が見られ、利き側からの方が大きな運動パフォーマンスを発揮できます。鱗食魚は、左右性が最も顕著な動物の一つです。

              
           鱗食魚の利きと捕食行動の1:1対応関係


 このように形態と行動に顕著な左右性を示す鱗食魚ならば、どの動物でも明らかになっていない「利きの神経制御メカニズム」にアプローチできると考えて研究を展開しています。

       
                 シクリッドの飼育システム

鱗食という食性

 他の魚のウロコを食べるという食性は、タンガニイカ湖のシクリッドでのみ見られるわけではありません。少数派ではありますが、他の地域の淡水魚にも、海水魚でも見られます。共通するのは、彼らは貧栄養下な環境に棲んでいることです。まわりにエサが少ない状況で、もし他の魚のウロコを食べれるようになれば、厳しい環境でも生き残れる可能性が広がります。ただ、鱗をはぎ取って食べる行為は容易ではないので、それに特化した形態や行動、体内メカニズムが必要となります。

 また、魚のウロコはケラチンでできていて、消化さえできればタンパク源になり得ます。もちろん、鱗食性魚類はウロコを消化できるような体内メカニズムをもっています。一方で、私たちはケラチンを消化できないので、ケラチンでできているツメや髪の毛を食べても栄養にはなりません。進化の過程のなかで、生存や繁殖にとって重要な性質は生物種ごとに違うからです。


            
             ウロコで占められた鱗食魚の胃の中身